フェチと言われても否定はできぬ 三島衛里子『高校球児ザワさん』1巻

スピリッツで連載が開始して以来、単行本になるのを心待ちにした漫画がある。
それが、三島衛里子高校球児ザワさん』。

強豪高校の野球部部員(マネージャーではなく選手)として所属しているザワさんこと都沢理紗を描いたこの漫画。
野球部に所属してる主人公ではあるが、けっして『野球漫画』ではないところが大きな特徴である。
手に汗握る試合の描写がなければスポ根的熱血展開なんてものもなく、描かれるのは部活後のダベりとか休み時間の何気ない会話とかそんなんもんで、まさにザワさんの日常そのもの。
しかも、それらはザワさんの視点から描かれることは決してなく、ときにチームメイト、ときに観客、ときに誰でもない第三者の視点からザワさんが観察される。
観察と書いたのも、ザワさんのキャラクターが非常に掴みにくくて、あんま喋らんし、喋ってたとしてもどういう内容なのかわからんからで、ザワさんが何を考えているかがほとんどわからんからこそ観察という言葉がしっくり来る。
ザワさんはどういうときに笑って、どういうときに怒ったりするのかなど、作中で与えられる情報が少ない。
だからこそ、ザワさんはどういう子なのかという想像を読者に委ねる部分が大きい。
帯に書かれてるコピー『その瞬間、恋におちた。……かも。』というのもあながち間違いではないと思う。
ザワさんが少しでも気になる読者は皆、ザワさんに恋をしているのだ。

そして、ザワさんのキャラクターは当然ながら、四季の変化や放課後のけだるい空気の描写も作品の味になっている。
第8話『秋雨』の湿度やザワさんの格好(夏服にセーター)の描写なんて、まさに秋そのもので感傷的にすらなってしまうほどの破壊力がある(と個人的に思ってる)。

作者のスピリッツ巻末コメントを掲載されているエントリー。
http://d.hatena.ne.jp/hazymn/20090318/1237308476
これからも、作者が本当に野球(とラーメン二郎、自分は食べたことないけど)が好きなのが良くわかる。
この作品の野球部部員感ってのがまさしく現実のそれで、実際に野球部に所属していたか入念に取材を繰り返したかのどちらかだと思う。
元野球部の俺が言うからきっとそうなのだ。

最後に1つ言わせてもらうと、1巻の一番の名場面は楠本の坊主頭を触りまくるザワさんの満面の笑みである。
異論は認めない。

高校球児 ザワさん 1 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

高校球児 ザワさん 1 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)